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よくある質問と回答

スポーツジム、スポーツクラブ、フィットネスジム、フィットネスクラブ、パーソナルトレーニングジム等(以下「スポーツジム等」といいます)に関係するよくある質問と回答です。

緊急事態宣言によるジム休館の場合の会費(その3)

 政府から、コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が発令され、スポーツジムの施設を1か月間休館することとなりました。当スポーツジムの会員・利用規約では、いかなる理由の休館でも既払いの会費は一切返金しないとの規定があります。緊急事態宣言を理由とした休館の場合でも会費を返金する必要はないのでしょうか。

画像 緊急事態宣言によるジム休館の場合の会費

回答

 会員・利用規約に返金を行わない旨の規定がない場合には、危険負担や債務不履行の問題となり、月会費の返金を行う必要があるものと考えられます。他方、会員・利用規約に返金を行わない旨の規定がある場合には、ケースによって結論が異なります。

ー解説ー

 返金を行うべきか否かは、会員・利用規約で規定があるか否か、会員・利用規約の規定がある場合には、会員・利用規約の内容がどのようになっているかにより判断されることになります。

【会員・利用規約において会費の返金を行わない旨の規定がない場合】

 スポーツジムが休館となった場合に、会員・利用規約上、スポーツジムが会費の返金をする義務を負わないとする規定がないときは、民法の規定に基づいて、会費の返金を行うべきか否かが判断されることになります。

 スポーツジムが緊急事態宣言の規制対象に含まれている場合には危険負担の問題、スポーツジムが緊急事態宣言の規制対象に含まれていない場合には債務不履行の問題となると考えられますので、以下では、スポーツジムが緊急事態宣言の対象に含まれているか否かを区別し、説明をします。

 スポーツジムが緊急事態宣言の規制対象に含まれている場合【危険負担の問題】

 スポーツジムが緊急事態宣言の規制対象に含まれている場合、「当事者双方の責めに帰することができない事由」(民法536条1項)によって、スポーツジムの施設が閉鎖されたものと認められ、危険負担の問題(会員が、会費の支払いを拒むことができるか否かの問題)として、会員は、会費の支払を拒むことができます。 

 民法536条1項で危険負担の効果として認められる履行拒絶権の法的性質については、以下のように考えられています。

 「反対給付債務の履行拒絶権の付与としているが(新法第536条第1項)、債権者は履行拒絶権がある反対給付債務の履行を常に拒絶することができるのであり、このような履行拒絶権の内容からすると、この場合の反対給付債務については、そもそも給付保持を認める必要すらないことから、債務としては存在しないのと同様に評価することができる。そのため、新法においても、旧法と同様に、債権者は、既に反対給付債務を履行していたときには、不当利得として、給付したものの返還を請求することができると解される。」(筒井健夫=松村秀樹編『一問一答 民法(債権関係)改正』228頁(商事法務、2018年)。」

 以上の考え方にしたがいますと、会員は、スポーツジム側に対し、既払いの会費について、不当利得(法律上の原因・理由がない場合に、返金を求めることができる法制度)として返還を求めることができると考えられます(民法703条)。スポーツジム側としては、会員に対して、すでに支払いを受けていた前払の会費について、返還する義務があることになります。 

スポーツジムが緊急事態宣言の規制対象に含まれていない場合【債務不履行の問題】

 2021年1月の2回目の緊急事態宣言については、居酒屋を含む飲食店や喫茶店、また、食品衛生法の飲食店営業許可を得ているバーやカラオケボックスなどが規制対象となっており、スポーツジムは規制対象に含まれていません。そのため、2回目の緊急事態宣言でスポーツジムの施設を休館とした場合には、あくまで法律に基づかない自粛要請に自主的にしたがったと評価(社会通念上、スポーツジムを利用させる義務の履行が不能であると考えられるものではないとの評価)できますので、休館は、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」(民法415条1項本文)(利用契約に基づき会員に対して施設を利用させる義務を履行することができていない状況)といえ、また、債務者の責めに帰すべき事由によるジムの休館として、債務不履行(利用契約違反)と評価される可能性があるものです。スポーツジムの債務不履行(利用契約違反)が認められる場合、会員はスポーツジムに対し、損害賠償請求を行うことができる、すなわち、少なくとも、休館の日数分の会費相当額の請求ができると考えられます。

 

【会員・利用規約において会費の返金を行わない旨の規定がある場合】

 返金を行うべきか否かについて、会員・利用規約で、返金を行わない旨が規定されているケースでは、その規定の有効性が問題となります。

 この有効性の判断については、スポーツジムが緊急事態宣言の対象に含まれているか否かにより結論が異なると考えられますので、スポーツジムが緊急事態宣言の対象に含まれているか否かを区別し、説明をします。 

スポーツジムが緊急事態宣言の規制対象に含まれている場合

 前述のように、スポーツジムが緊急事態宣言の規制対象に含まれている場合、危険負担の問題(会員が、会費の支払いを拒むことができるか否かの問題)として、会員は、会費の支払を拒むことができ、また、既払いの会費は、不当利得(法律上の原因・理由がない場合に、返金を求めることができる法制度)として返還を求めることができると考えられます(民法703条)。

 危険負担との関係で、会費の返金を行わない旨の規定の趣旨について、この規定は、当事者の合意による規定ですので、当事者の合理的な意思解釈にしたがえばどのような趣旨の規定と解することが相当か、という観点から検討する必要があります。

 会費の返金を行わない旨の規定の趣旨は、当事者の合理的な意思解釈にしたがえば、会員が、スポーツジム側に対して有する不当利得返還請求権を放棄させる旨の規定であると考えることができます。

 このように考えますと、消費者契約法8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)との関係も問題とならず、また、消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)との関係も問題とならず、返金を行わない旨の規定は、有効であると考えられ、結果として、会員は、スポーツジム側に対して、会費の返金を請求することができないと考えられます。

 他方、本件とは離れ、会費が未払いの場合には、当事者の合理的な意思解釈にしたがえば、返金を行わない旨の規定の趣旨を、民法536条1項とは異なる合意が当事者間で行われたものと考え、債権者である会員に、反対給付債務の履行拒絶権を発生させない趣旨の規定と考えることができます。そうすると、会員である債権者は、履行拒絶権を行使することはできず、スポーツジム側から請求がなされた場合、支払をしなければならないと考えられます。 

スポーツジムが緊急事態宣言の規制対象に含まれていない場合

 前述のように、あくまで法律に基づかない自粛要請に自主的にしたがったと評価(社会通念上、スポーツジムを利用させる義務の履行が不能であると考えられるものではないとの評価)できますので、休館は、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」(民法415条1項本文)(利用契約に基づき会員に対して施設を利用させる義務を履行することができていない状況)といえ、また、債務者の責めに帰すべき事由によるジムの休館として、債務不履行(利用契約違反)と評価される可能性があるものです。

 これを前提としますと、返金を行わない旨の規定の趣旨は、スポーツジム側の債務不履行に基づく損害賠償義務を免除する趣旨の規定であると考えられます。

 消費者契約法8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)1項1号との関係で、本件のように、会費を一切返金しない旨の規定は、無効となると考えられますので、返金を行わない旨の規定があったとしても、スポーツジム側は、損害賠償義務の履行として、休館の日数分の会費相当額の支払義務を負うことになります。

 他方、本件とは離れて、会員・利用規約において会費の半額のみ返金する旨の規定があるケースを考えますと、このようなケースは、消費者契約法8条1項2号の問題となります。同号では、損害賠償義務の一部を免責する条項が無効とされる範囲について、債務者の「故意又は重大な過失によるものに限る」とされています。スポーツジム側が緊急事態宣言の規制対象に含まれていない場合でも、緊急事態宣言が発令されていることから、スポーツジムが会員の安全のために休館としたときは、利用契約上のジムを利用させる義務について、「故意又は重大な過失」によりジムを閉館し、その義務に違反したと評価されうると考えられます。そうすると、会費の半額のみ返金する旨の規定は、消費者契約法8条1項2号で無効となるもので、債務者(スポーツジム)の損害賠償義務の一部を免除する規定は、無効であると考えられます。そのため、スポーツジム側は、会費の全額の返金をする必要があるという結論になると考えられます。

 

 以上のように、会員・利用規約でコロナウイルス等の感染症や伝染病関連の条文が規定されていないと、スポーツジムを規制対象とする緊急事態宣言が発令されていても、スポーツジム側は、会費の返金を行わなければならない可能性があります。したがって、会員・利用規約でコロナウイルス等の感染症や伝染病関連の条文を規定することは必須と言っても過言ではないほど重要です。ただ、現状では、会員・利用規約でコロナウイルス等の感染症や伝染病関連の条文が規定されていないケースが多いものと考えられます。今後しばらくはコロナウイルスの流行が続くと考えられることからコロナウイルス等の感染症や伝染病関連の規定を設ける必要性が高いといえます。感染症や伝染病は、ほぼ定期的に出現することが想定されるものですので、それらに対応できるような会員・利用規約を作成しておくことが重要になります。

規定の有無・規制対象による対応
画像 規定の有無・規制対象による対応

(2021.3.18公開)

【参照条文】消費者契約法8条1項

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)

第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

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